東京地方裁判所 昭和55年(ワ)7210号 判決 1983年5月10日
当事者は別紙当事者目録記載のとおり
主文
一 被告株式会社田中総業及び同株式会社田中貴金属貿易は、各自、別表一記載の各原告に対し、同表記載の各金員及び同各金員に対する昭和五五年七月一六日以降完済まで年五分の金員を支払え。
二 被告株式会社田中総業、同田中貴金属貿易及びY1は、各自、別表二記載の各原告に対し、同表記載の各金員及び同各金員に対する昭和五七年七月一六日以降完済まで年五分の金員を支払え。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(原告ら)
主文同旨の判決並びに仮執行宣言の申立
(被告Y1)
請求棄却・訴訟費用原告ら負担の判決
第二当事者の主張
(請求原因)
一 被告株式会社田中総業(以下、被告田中総業という。)及び被告株式会社田中貴金属貿易(以下、被告田中貴金属貿易という。)は、貴金属の売買、市場における貴金属の売買取引・委託及び代理業を目的とし、金地金市場における売買取引を営んでいると称している会社であり、いずれも被告Y1がその代表取締役に就任し、経営している会社であって、本店所在地も同一で、実質上同一人格とみられるものである。
二 原告らは被告田中総業若しくは同田中貴金属貿易に対し、別表三記載のとおりの金員等を交付したが、それは、いずれも右被告会社の従業員らの右被告会社はロンドン金市場やニューヨーク・コメックス等の海外金市場と連動した金価格での取引をしており、右被告会社が正会員として加盟している大阪金為替市場は公認の市場であり、同市場の価格は間違いないものである旨及び金は他の商品と違い必ず値上がりするものであり、一キログラム当り二〇万円の保証金を出せば先物の予約が可能であって、それはいつでも反対売買により決済することが可能であり、かつ、元金保証で追証拠金は不要である旨の勧誘を信じて金地金の先物取引に応諾し、その委託証拠金として交付したものである。
三 しかしながら、真実は、右被告会社が海外金市場と連動した金価格で取引をしていた事実はなく、大阪金為替市場は私設のものであり、会員数も不明で、市場の組織・運営・取引方法等も全く得体の知れないものであり、また、右被告会社が右市場で取引していたことさえ疑わしく、また、反対売買により決済可能とか、元金保証とかも全くの出鱈目なものであり、右被告会社の従業員らの前記勧誘の際述べたことは全くの虚偽であり、かかる虚偽の内容のものをもって勧誘し、原告らをその旨誤信させて金員等を交付させたのは、右被告会社において原告ら顧客から委託証拠金名下に金員等を騙取する経営方針に基くものである。従って、被告会社自体不法行為の担い手であり、また、右経営方針の決定に参画した被告Y1も同様に不法行為の担い手である。
四 また、被告らのいう大阪金為替市場での金取引というのは、将来一定の時期を受渡期限と定め、転売又は買戻しの方法による差金決済の可能なものというのであるから、これは商品取引所法二条四項にいう先物取引に該当するものであり、従って、私設の市場である大阪金為替市場でかかる先物取引を行うことは商品取引所法八条に違反し無効なものであるので、この点からも、右被告会社は原告らから委託証拠金名下に金員等の交付を受けることは許されないものというべきである。
五 右のとおり、被告らは原告らに対し、それぞれ原告らから騙取した金員等の損害を賠償すべき義務があるところ、被告らは原告X12に対しては、うち二〇〇万円を弁済しているので、同原告の右損害にこれを内金充当することとする。
六 よって、別表一記載の原告らは、被告両会社に対し、それぞれ同表記載の各金員及びこれに対する不法行為後の昭和五五年七月一六日以降完済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払を、別表二記載の原告らは被告両会社及び被告Y1に対し、それぞれ同表記載の各金員及びこれに対する不法行為後の昭和五五年七月一六日以降完済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める。
(被告田中総業及び同田中貴金属貿易)
適式の呼出を受けたのに、本件口頭弁論期日に出席せず、答弁書その他の準備書面も提出しなかった。
(被告Y1)
適式の呼出を受けたのに、本件口頭弁論期日に出席しなかったが、陳述したものとみなされた答弁書には、原告ら主張の請求原因一は認めるが、被告田中貴金属貿易は名義上存在するだけで何んらの活動もしていない、同二のうち原告らが交付した金員等については事実を調査したうえ答弁するが、その余は否認する、同三及び四は争う旨の記載がある。
第三証拠関係
本件記録中証拠関係目録記載のとおり
理由
第一原告らの被告田中総業及び同田中貴金属貿易に対する請求について
被告田中総業及び同田中貴金属貿易は、前示のとおり、適式の呼出を受けたのに本件口頭弁論期日に出席せず、答弁書その他の準備書面も提出しなかったので、原告ら主張の請求原因一ないし三の事実はすべて自白したものとみなす。
右事実によれば、原告らの被告田中総業及び同田中貴金属貿易に対する請求はすべて理由がある(なお、原告X12は二〇〇万円の弁済を受けたことを自認しているが、同原告はそれを差引いて本訴請求をしているので、同原告の請求もまた全部理由がある。)。
第二原告X1、同X2、同X3、同X9、同X11、同X12、同X13及び同X14の被告Y1に対する請求について
被告Y1が被告田中総業及び田中貴金属貿易の代表取締役であり、同被告会社を経営しているものであること、右各被告会社が右原告ら八名の主張するとおりの目的の会社であり、金地金市場における売買取引を営んでいると称している会社であることは、右原告ら八名と被告Y1との間で争いがない。
原告X12本人の尋問結果により真正に成立したものと認める甲第七号証の一、二、第八号証の一ないし四、第九号証、原告X14本人の尋問結果により真正に成立したものと認める同第一一ないし第一三号証、第一四号証の一ないし四、第一五号証の一ないし三、第一六号証の一、二、第一七号証の一ないし二三、弁論の全要旨より真正に成立したものと認める同第一号証の一ないし四、第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし八、第四ないし第六号証の各一、二、第八号証の五ないし一六、第一〇号証、第二五ないし第二七号証、第二八号証の一ないし三、第二九、第三〇号証、原告X12及び同X14の各本人尋問の結果と弁論の全要旨によれば、右原告ら八名は被告田中総業の従業員から同原告ら主張のとおりの内容の金地金の予約売買取引の勧誘を受け、その言辞を真実と信じて同被告会社に金地金の予約売買取引を委託するとともに、同被告会社にその取引委託の証拠金として同原告らは別表三番号7ないし14記載のとおりの金員、充用有価証券等を交付したことが認められるところ、当時国内に公設の金地金取引市場がなかったことは公知の事実であり、また、右勧誘に当って説明された大阪金為替市場なるものが現実に存在したものであるかどうか、存在するとしてもその組織・運営・取引方法がどのようなものであるか、取引方法が公正に行われていたか、顧客保護のためどのような措置がとられていたか、被告田中総業が顧客から委託を受けた注文を実際に金地金市場における取引に掲げていたか(ノミ行為とか自己玉の相対売買をしていなかったか)等については原告らにおいて調査しても窺い知れないものであるので、右市場の正会員であると称している被告田中総業若しくは同会社の代表取締役であり経営者であるY1において右の点について明らかにしない限り、はたして公設の市場でないところの取引が公正に行われていたかどうか等の疑いをもたれてもやむを得ない面があるのに、右被告会社は前示のとおり適式の呼出を受けたのに本件口頭弁論期日に出席せず、答弁書その他の準備書面等も提出しないし、被告Y1も前示のとおり実質的な答弁の記載のない答弁書と題する書面を送付して来たのみで本件口頭弁論期日に出席せず(本件口頭弁論期日は被告Y1の関係では一三回開かれている)一言の弁明さえしないし、更にはまた、前掲各証拠及び弁論の全趣旨に照らすと、被告田中総業に委託した原告らの取引の結果の集計では、計算上益金が生じている原告もあるのに、同被告はその益金の支払はもとより預った委託証拠金の返還さえしていなかったり、委託した取引がその後どのようになったかさえ不明な原告のものもあることが認められるので、これらのことを彼此斟案すると、被告田中総業の従業員が右原告らにした勧誘の内容は全く真実に反するものであると推認せざるを得ず、かつ、右被告会社の従業員がこれだけ大規模に多数の者に右のような内容の勧誘をしたということは、右被告会社の経営方針であり、それには同会社の代表取締役であり経営者である被告Y1が参画し、その経営方針を決定したものとみざるをえない。
そうとすれば、被告田中総業の従業員が右原告らに対し内容虚偽の事項を述べて金地金の予約取引に応じさせ、同原告らから右金員等を交付させたのは詐欺による不法行為にあたり、それは右被告会社の経営活動そのものと認められるから、同被告会社自身その不法行為者として賠償責任があるが、その経営方針に参画、決定した被告Y1自身も商法二六六条の三第一項により連帯してその責任を負うといわざるを得ない。
しかるところ、右原告らが被告田中総業に委託証拠金名下に交付した金員等が別表三番7ないし14記載のとおりであることは前示のとおりであり、同原告らはそれと同額の損害を被ったことになるので、被告Y1に対しその損害の賠償を求める右原告らの請求はすべて理由がある(なお、原告X12は二〇〇万円の弁済を受けたことを自認しているが、同原告はその損害額からこれを差引いて本訴請求をしているので、同原告の請求もまた全部理由がある。)。
第三結び
以上の次第であるから、原告らが委託証拠金名下に交付した金員等と同額の損害額(但、原告X12についてはその額から二〇〇万円を差引いた額)及びこれに対する不法行為後の昭和五五年七月一六日以降完済まで民法所定年五分の遅延損害金を求める本訴各請求はすべて認容することとし、訴訟費用につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 海保寛)
当事者目録
新潟県新潟市<以下省略>
原告 X1
新潟県中頸郡<以下省略>
同 X2
同所同番地
同 X3
新潟県西蒲原郡<以下省略>
同 X4
富山県新湊市<以下省略>
同 X5
石川県金沢市<以下省略>
同 X6
石川県金沢市<以下省略>
同 X7
石川県金沢市<以下省略>
同 X8
石川県珠洲市<以下省略>
同 X9
石川県石川郡<以下省略>
同 X10
長野県上高井郡<以下省略>
同 X11
静岡県浜松市<以下省略>
同 X12
同所同番地
同 X13
静岡県浜松市<以下省略>
同 X14
右原告一四名訴訟代理人弁護士 茶村剛
同 稲増孝
東京都豊島区<以下省略>
被告 株式会社田中総業
右代表者代表取締役 Y1
東京都豊島区<以下省略>
被告 株式会社田中貴金属貿易
右代表者代表取締役 Y1
東京都世田谷区<以下省略>
被告 Y1
<以下省略>